
【2018年10月】
今日こそは主人が帰ってくる。
そう思って色々な事に耐えてきました。
けど、お昼前に届いたLINEは私の希望を粉々に打ち砕きました。
『忙しいから、土曜日の午後に帰るから。』
そう書いてありました。
今日はまだ木曜日です。
しかも今日からではなく、火曜の夜から主人はいませんでした。
あまりの悲しさに涙が出そうになりました。
お昼休みも全く会話する気になれませんでした。
午後の仕事中もあからさまに元気が無かったんだと思います。
よくお話をする同僚が心配して声をかけてきました。
彼女は梶田さんと言い、私より年上で、昔からよくお世話になっていました。
もちろん主人の話をするわけにはいきません。
けど、色々ショックな事があって悩んでいる、と言う事は伝えました。
それなら美味しいものでも食べて帰ろうよ、と誘って頂きました。
もちろん反対する理由もありません。
早めに仕事を切り上げて、最寄り駅から少し離れた別の駅で待ち合わせをしました。
しかし、待っていたのは梶田さんだけではありませんでした。
「えっ、なんで高橋君が一緒にいるの?」
「〇〇駅で見かけたから、誘っちゃった。同じ部なんだから、たまにはいいでしょ?」
女同士で悩みを話そうと思っていました。
(愚痴だけ話すと、ますます暗くなるから気分転換にはちょうどいいかな…。)
そう思い、3人で食事に向かいました。
私と高橋君はお酒は飲みませんでした。
高橋君はお酒が苦手、私は少し体調が優れないからと言う理由で控えました。
(妊活中とは言えないけど…。実際、最近はしてないから妊活中とも違うのかも…。)
梶田さんだけは最初から沢山飲まれていました。
もともとお酒が好きな彼女は、酔った勢いで、色々な質問を彼にしていました。
赤面してしまうような話もありました。
そんな会話をしているうちにあっという間に時間が過ぎてしまいました。
お会計を済ますと、梶田さんは、もう一軒行くから、と言って夜の街に消えて行ってしまいました。
シラフの私たちだけ取り残され、ゆっくりと駅に向かいました。
「気分は晴れました?」
ふいに高橋君から話かけられました。
「えっ?どうして?」
「恵子ちゃんが元気ないから、あんたも一緒に来て励ましなさい、って連れてこられたんですよ。」
「そ、そうだったんだ?」
「はい。けど、梶田さんだけ盛り上がってたから〇〇さん、気晴らしになったのかなと思って。」
「話はあまり出来なかったけど、気分転換にはなったよ。」
「そうですかぁ。もし良かったら僕が悩みを聞きますか?」
「えっ?高橋君が?」
「はい、聞くだけですけどね。」
「ありがとう。けど、男の人にはわからないことだから…。男の人に聞きたい内容だったら、今度お願いするね。」
「ですよねぇ。」
そんな微妙な雰囲気のまま駅の近くまで着きました。
その時でした。
「もう少し一緒に歩きませんか?」
不意に言われた言葉に驚きました。
「ちょっとコーヒーでも飲みながらその辺を歩きませんか? あまり話す時間も無かったし、仕事のことも聞きたいから…。」
すぐ近くにあるカフェを指差しながら彼が言います。
(2人きりでお店に入るわけじゃないから、いいかな…。)
コーヒーをテイクアウトし、宛てもなくぶらぶらと散歩しました。
仕事や梶田さんの話をしながら20分くらい歩いたと思います。
コーヒーも飲み終わり、会話も尽きてきたので、そろそろ帰ろうかと話した時でした。
彼が私の手に触れてきました。
「えっ、何?」
咄嗟に手を引きます。
「あ、いや、えっと、手を繋いでみたいなって思って…。」
バツ悪そうに高橋君が答えます。
気まずい雰囲気になりそうでしたので、冗談を言って切り替えようとしました。
「おばさんの手なんか触ってもがっかりするだけよ。もっと若かったら私も喜んで繋いだけどね。」
笑いながら答えました。
「〇〇さんはおばさんじゃないでしょ。僕は綺麗だと思ってるよ。」
そう言って、また手を握られました。
彼は真面目な顔をして私を見つめています。
「ちょっと、高橋君…。こんなところで、恥ずかしいから…。」
人通りは少ないですが、いないわけではありません。
「じゃあ、このままもう少しだけ。」
人気を避けるように、また歩き始めました。
今度は手を繋いで、です。
こんな若い子と手を繋いでいることに、つい顔を伏せてしまいます。
けど、伝わる温かさは私が求めているものに近い感触でした。
「〇〇さん、少しは元気出ました?」
「えっ?」
「なんとなく寂しそうだったから。勘違いかもしれないけど、こうしてたら色々紛れるかなって。」
「そうかも。緊張してたら、なんか嫌な事忘れてたね。」
「良かった。」
そう言うと彼はフワッと私を抱きしめました。
「えっ、ちょっ…。」
見渡すと、もう人影はありませんでした。
少し抵抗すると、彼が耳元で囁きます。
「少しだけ…。」
その優しい声と、彼から漂う爽やかな香りが私を麻痺させます。
主人とも、一弥君とも違う、甘くて爽やかな香りです。
(この匂い、だめ…。)
金縛りにあったように動けなくなります。
身体が緊張で微かに震えていました。
それを見透かしているかのように彼だけが少しずつ少しずつ動いていきます。
それが何を目指しているか、わかっていても動けませんでした。
やがて彼の唇が私の唇に触れ、重なっていきます。
(あぁ、だ、だめ…。今、そんなことされたら、私、私…。)
もう何も考えられませんでした。
ただただ、彼の唇や舌の動きに呼応して、身体をビクッ、ビクッと震わせます。
しばらくして人気を感じるまで、彼の思うがままに唇を蹂躙されました。
「〇〇さん、行きますよ。」
手を繋がれ、身体を寄せるようにして歩きます。
そして彼が立ち止まった先には、男女が愛し合う場所がありました。
(こんな場所、だめ…。早く断らない、えっ?)
再び、キスをされ、強く抱きしめられます。
(あぁ、もうダメ…。身体が、高橋君に従えって、言ってる…。)
もはや彼に促されるまでもなく、その場所へ足を進めていました。
(ゆうちゃんが、悪いのよ…。ゆうちゃんが、お母さんを、ほったらかしにするから…。)
そう心の中で繰り返しながら、自分の過ちを正当化するしかありませんでした。
コメント
恵子さんのこと気になってたんですね😊
この後、どうなっていくのかどうなるのか凄く気になりますね‼️